この土地をあるいて
私は、海が目の前の宿にいながら本当は山が好きです。山のすがすがしい空気は海辺には存在しないからです。この土地に来てみてはじめて、南よりの風が吹いている日は、どんなに気持ちよく晴れていても洗濯物が乾かないことを知りました。湿気が多く洋服ダンスの中、靴箱の中など気をつけないとみんなかびてしまいます。愛想がなくて強い言葉の土地の人たちも、いまいち好きになれませんでした。
ところが、この頃ちょっと気持ちに変化が出てきました。きっかけは地元の情報誌「まほろば」を知ったことでしょう。その編集者の池田さんやその他のまほろば会員の方々との接触が、私の心を動かしたのです。「今、山に可愛い草花が咲いているそうです。一緒に行きませんか?」と先日誘いを受けました。もともと低山のハイキングが好きだった私は、二つ返事で行くことにしました。目的地は、土地の人でさえ「あー、あのあたりは行った事がない」と言われるほど山深いところで、狭い林道が長々と続く場所です。野草研究家の関端さんが、案内をしてくださるとの事でした。
行った日は、快晴で気持ちがいい天候でした。房総の秋は、寂しさを感じないのどかなやさしさがあります。湿度も低くて爽やかな日でした。私の家からそう遠くない場所からどんどん千倉方面に向かって行きます。途中からものすごく狭い林道へと入っていきます。気をつけないと脱輪しそうなところですが、道の周りには早くも可愛い秋のたむら草、野あざみ、たで、玉あじさい、水引草などがひっそりとしています。
私は、「今ごろあじさいなんて、季節はずれな....」と思っていました。玉あじさい8月下旬からが季節なのだそうです。私は普通のあじさいより額あじさいの方が好きですが、額あじさいよりさらにかわいらしさがあるのです。この地方にいながら、そんなことも知らないのだなぁと自分が恥ずかしくなりました。大好きな水引草も、よく見ると紅白になっています。裏まで良く見て見ないと気がつかないのです。また、普通の水引き草と違う、金水引という草(金といっても色は黄色です)もあって、下のほうが紅葉していました。見るもの全て可憐でかわいらしく、そのたたずまいに心惹かれてしまいました。「さらしなしょうま」という白い花も、満開なものとまだつぼみのものとはすっかり様相がかわっています。そういえばこの花は信州でも咲いていました。遠くから見ると白い穂先のような花が、尻尾を連想させるようにぽっぽっと張りだしていて面白いです。中にはあのおそろしいトリカブトもありました。花は紫で咲いている姿は実にかわいらしいものです。そうした花々に見とれているうちに、今日の目的地の山頂が見えてきました。「あの山の頂上まで行くのですよ。」といわれた時は、「へ~、あそこまで行くのだ」と思いました。ところが次からが大変でした。「えっ!ここから行くんですか?どうやって?」普通には体を支えられないほど急な山道です。山道というより、急なけものみちのようです。普通の格好でいけるような気軽なハイキングコースしか経験のない私は、一人で「どうやっていくの。すべっちゃうー。足が届かないー!」と叫んでいました。すっかりみんなのお荷物(^^;)でも久々の山は、本当に気持ちよく吹く風も爽やかでした。私は必死でしたから、ひとり顔を真っ赤にしていました。そんな私でも、また是非行きたいと思う魅力がいっぱいでした。お花屋さんでしか見たことがない、吾亦紅や女郎花、今話題のローズヒップ、大変珍しいマツムシソウ等など。
登るのは何とか出来ても、下る時は危険がいっぱい。道が細く急で、枝や蔓や根がしっかりした草につかまりながら、慎重に足元を確かめながら一歩一歩下ります。体重をかけすぎてもずるっとすべります。草がぼうぼう生えていて、気をつけないと道を外れて下へ落ちそうです。くだりはのぼりの3倍みんなのお荷物になりながら、何とか無事ふもとに到着。あー怖かった。でも半面楽しかった。こんな気分は、なんて久しぶりなのでしょう!
行きはガイドさんの荷物をみんなで持ったのに、帰りは私の荷物をガイドさんに面倒みていただき、紋屋で飾る草花まで採取してくださいました。次の日は私が花活けの当番でしたから、いつもより気持ちが入りました。なんと可憐な草花達。
この土地には高い山はない。私の言う山はないと思ってきました。高さも大事かもしれませんが、地元のしかも近い場所に、こんなにも素敵な場所があったなんて。そう簡単にはいけませんし、スズメバチやマムシにかまれる危険もあり、浮ついた考えで踏み込んではいけない場所です。でも沢山の可愛い花々だけでなく、この土地の山が初めて愛すべき山になったのでした。車でさっと通ってしまっては何も分からない、自分の足で歩まねば決して知りえない実感でした。澄み渡った空気、青い空、可愛い草花達。自然に親しんでこそ得られる満足感がここにありました。この土地には多くのよそからの移住者が住んでいます。芸術家も多いのです。よその土地から房総へやってきた人たちが、素敵なレストランやカフェ、ガラス工房や陶芸、貝屋さんなどさまざまな活躍を見せています。土地だけでなく多彩な才能の持ち主と出会い、この土地に来てこそ味わえるものを多く知らなければと、改めて自分の進むべき道に一筋の新しい光が当たったような気持ちでした。
この土地を良く知ってこそ、本当の意味でのお客様への案内ができるのです。良く見かけるお土産屋さん。入っても愛想もないですし、ろくなものも置いていない。いくら新しい道路を作っても房総に来る人はいなくなってしまいます。この綺麗な空気と青い海、美しい星空、それだけでも十分なはず。海での遊び方や、良く房総へきていた文人達の残したものを追い求め、また新たなる移住者達の文化的な営みに触れる。そうした広い活動をこれから目指していこう。軽い気持ちで参加した山歩きでしたが、多くのものを私に与えてくれました。自然の土と空気と可愛い草花が、エネルギーを分け与えてくれたのですね。
ガイドをして下さった関端さん、誘ってくださった菜花さん、池田さんに深く感謝したいと思います。
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◆素顔の女将◆
胃カメラの検査の結果、私の胃の中にピロリ菌がいる事が判った。投薬による除菌治療をする事になったので、その事を家内に言うと、「除菌?まな板みたいね」とおかしそう。除菌のできるジョイを飲むんじゃないんだからぁ~。(by aruji)

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