おにぎりひとつ
サービス業というものは、こちらがご提供をするサービスに対して対価を頂戴する職業です。サービスと一言で言っても、その価値観にはかなり個人差があり、その定義は非常に難しいものです。
私がサービス業に従事するようになってもう十数年になりますが、この頃本当に小さなこと一つ一つに悩み、紋屋としてのきちんとした決まりを作っていかなければならないと感じます。私が百貨店にいたのは東京都下の郊外店で、非常に顧客率を高めやすい場所だったため、何所までして差し上げるべきか、ということで頻繁に悩みました。
宿屋においては、頻度は百貨店のようではありませんが、その内容が衣食住全部ですし、時間も長く、いろんな人が接するので、ものすごく小さなことから微妙な部分で悩まなければなりません。
海水浴や釣りでお越しになられたお客様がチェックアウト後のご入浴も、ほかでは有料でお入りいただいているようですが、紋屋では無料でご提供しています。しかし、バスタオルも貸してくださいということになると、やはりそれは頂くのが正当だと思わざるを得ません。
また、ご料金を頂かないお子様には浴衣がつかないのに、上のお子様が着ているから下のお子様にもとおっしゃられ、それは有料だと申し上げたら、こんな子供の気持ちが分からない宿はない、とアンケートに書かれて行ったお客様がいらっしゃいました。ご料金をいただかないお客様には、洗濯代等がかかる備品はお出ししていないのですが、お子様の気持ちを判らないのとは、全く異質な事だと思います。日本ではとかくお客様は何を言ってもかまわない、お客様は神様なんだからという意識があるようです。書物棚の書籍やお部屋の備品を黙って持ち帰ったり、無料でお貸し出ししているアロマランプを割ってしまったのにお申し出がなかったり、お客様は本当に何をしてもいいのでしょうか?それはおのずとノーだということを誰もが知っているはずです。
毎日お客様のため、喜んでいただくことが好きでこの仕事をえらんでいます。できることなら何でもして差し上げたいのです。やはり対価をいただけないような種類のことは、気持ちを押し殺してお断りしなければいけない時もあるのだと思います。紋屋では、食べきれないほどの量のお料理をおだししていません。それでも、もうお腹がいっぱいだからご飯はいりません、とおっしゃる方お客様が多いです。知らないうちに、係達は「ではおにぎりを持って参りましょうか」と無料の握ったご飯に塩をつけただけのものをご要望に応じてお出ししていたようです。紋屋で頂いているご料金は、ごく一般的な宿屋の料金です。高級旅館のように、海苔や漬物までついた具入りのおにぎりが、食後黙っていてもついてくるところとは違います。
「おにぎりにして」とお客様から言われた時に、有料ですと申し上げ、「えーっ!料金取るの?」といかにも不満そうにお客様から言われると、係達は自動的に「では塩結びでよろしければ」としていたそうです。でも、塩結びであろうと、人がおひつにご飯を盛るよりもずっと手が掛かる仕事です。ご飯はいらないというのは、お客様の意思なのではないのでしょうか?
ただし宴会などでお酒を飲む方は、殆どご飯は召し上がりません。そして後になって小腹がすいてくるものです。そうした方々ほど、有料には怪訝な表情をなさいます。団体さんになれている係は、有料には反対だと言っておりました。
お客様とじかに接する人間は、お客様の嫌な表情を見るだけで忍びなく、正当なことも申し上げたくなくなるのです。喜んでいただくのが好きな私たちなので、喜んでいただけないのは嫌なのです。しかし、そうしたことが尚更お客様を神様だと思わせてしまう可能性もあります。
社長は、『旅館のプロの仕事として、塩結びはいただけない。旅館の仕事として恥ずかしくない形でお出しする。それが宿屋としてのおもてなしだ』と従業員に言いました。私はどちらの気持ちも分かりましたが、今回は社長の意見に賛成しました。お昼前に到着したお客様に、「おむすびくらいで良いから、お弁当を作ってもらえない?」というご相談には、やはり、旅館として最低限の出し方に添うものでなければならないと思うからです。こうした小さなことも、従業員と一緒に意見を出し合い、検証しておもてなしに力をいれて行こうとしています。旅行に出るにはお金が掛かります。交通費、外での食事代、お土産代、宿泊費、こう考えるとなるべくその他のものにはお金をかけたくないでしょう。その気持ちも十分理解できます。
ただ、私たちは決して馬鹿高いご料金はいただいておりません。良いおもてなしを続けていく為にも、正当なご料金を頂いていかなければならないのです。逆に良い対応が出来なければ、それを正規のお値段ではいただけません。失態に対する全力のフォローにも、ご料金を頂く時と同じように心がけています。もちろんフォローしきれない場合もあり、そのときは情けない限りです。不服である旨を存分におっしゃっていただくことも、お客様のご要望に叶うようにすることもございます。先日私の母に久しぶりにあったところ、「旅館は料理がきまっていて、量を少なくって言うのは出来ないんですってね。」と言われました。「そんなことはないわよ。うちでは一人一人の好き嫌いまで聞いているのよ。」といいながら、量を少なくすることも出来ないという宿屋もあるのだな。そのほうが多いのかもと思いました。世の中にはなかなか満足できるようなサービスを売ってくれるところはありません。
そうした小さなことに、ひとつひとつ真剣にこころを配っている商売人も実に少ないのです。だからこそ、一層努力して良いおもてなしをしていきたいと考えます。皆様も是非ご一考いただき、ご意見頂戴できればと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆
自宅の家内のデスクの上に、何やらキレイなラセン状の物が置いてあった。「これ何?」と聞くと、景品でもらったブレスレットだと言う。「これ、伸ばせばウエストに巻けるね」と言うと、「腰は無理でしょう。首輪か足輪じゃない」と家内が言う。首輪か足輪って、犬じゃないんだからぁ。ネックレスとかアンクレットとか言って欲しいよなぁ~。(by aruji)●おまけの息子●
ソーラーシステムのセールス電話があったと息子が言う。「ご主人様ですか?」と聞かれたので、息子が「いいえ」と応えると「奥様ですか?」と聞かれたとか。高校生の息子の声は、どう聞いても“奥様”じゃないよなぁ~(by aruji)

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