ほっとできるもの
私が紋屋に嫁に来たときは、殆ど皆無に近かったお馴染み様も、お蔭様で直接のお客様だけでも、10パーセントを超えるようになりました。エージェント経由でも、何度も利用くださるお客様を含めれば、もっとパーセンテージがあがるでしょう。
最近は、小さいお子様連れが多くなって尚のこと、リピーターが早いサイクルでお越しになるようになりました。とてもありがたいことです。
何時もご夫婦でいらしていて、なにやらエピソードがあり、アンケートを残していかれると、こちらも覚えやすいです。回数が増えるたびに、親しみがわきますし、お客様のほうでも、売店の○○さんとか、客室係の誰々さんと名指しでお褒め頂くこともあります。
また、はじめは単純に料理が美味しいとか、子連れに優しいからとお越しいただき、人間対人間の特別な心の交流が無くても、段々にお客様が紋屋自体やおもてなし、従業員を覚えてくださり、いろんな世間話に花を咲かせられるようになることが出てきます。お客様のほうから「おかみさん」と話し掛けてくださり、いろいろなコミュニケーションを交わせるようになります。
単なる普通のお客様から、再度来館のお客様、再々度のお客様へと昇格し、そしてお馴染み様へと移行していきます。もちろん中には、何度いらしても誰とも必要最低限のことしか話さず、心を開いていただけないお客様もいらっしゃいます。こちらも人間なので、やはり親しくお話ししていただけるお客様のほうが、尚嬉しいという気持ちはします。
私が、ご不便が無いかどうかお部屋へ伺っても、「何しにきたの?」というリラクションだった方が、「こんにちは、又来ました!」とニコニコしてくださるようになると、やっとお馴染み様になってくださったのですから、内心「やったね!」と、嬉しくなります。今のお馴染み様の中にも、私にどんな息子がいて、どんな趣味があるとか、昨年秋は何所へ旅行したかなどを知って覚えていてくださるお客様もあります。紋屋の従業員の誰々さんは、私のお友達、今日はいなかった。また他のお馴染み様も、今日は何時もいるフロントのお姉さんがいなかった、フロントの優しい人もいなかった。と寂しがってくださる。皆さんそれぞれの紋屋の従業員に会うのを楽しみにして下さる。
私も、一度いらしただけでお互いに意気投合して、それ以来メール友達的なお客様もあり、そのような心のふれあいのある状態こそ、お馴染み様だと思うのです。
やはりはじめは普通のお客様だったのが、何回かお越しになるにつれ、そのお客さまが私を宿屋に嫁いだ娘のようにかわいがってくださるようになったお客様もあります。私もそのお客様がいらっしゃると、お越しになるまでの間に起きた事件や家族の話しなど、長々とお話しします。本当にお目にかかるのを首を長くして待っているお客様なのです。
そのようなお客さまは皆さん、紋屋が忙しいと「今日はいっぱいね。良かったわね。」と自分のことのように喜んでくださいます。何か特別な日は紋屋、と決めてくださっていて、全国にたくさんある宿屋の中から、施設の豪華さではなく、人のぬくもりのようなものを求めてお越しいただいています。
このような紋屋への親近感が、私や社長だけでなく、従業員のみんなにまで波及しているところが、紋屋の強みです。本来は、それでこそ接客業を選んでいる意味があります。先日、ホームページで私やarujiのこだわりと思い入れをご覧になって、高級な宿屋のようなおもてなしを期待していらした方がありました。その方がおっしゃっていることは、もちろんその通りと思えることでした。
料理は、温かいものはきちんと温かく出す。大きな運びで客の前に持ってこないで、お盆で出す。お客の様子を見て、ご飯を持ってくる時間を推し量るように。もっといい器にする。などなど。しかし、施設上や経営上出来ない事が多く、私も本来はそのお客様がおっしゃるようなおもてなしをやりたいので、非常に残念です。
バリ島の高級リゾートホテルのように多くの従業員がいて、それとなくお客様を見守っている。お客様が何も言わなくとも、欲しいものがやって来る。そんなおもてなしは確かに理想です。もっと優雅に心の余裕のある接遇を、少しづつでも心掛けていきたいと思います。
お越しになる皆様に心に残るちょっとしたメッセージをお届けできる宿屋でありたい。それを出来る宿屋は、たぶん高級宿であってもそう多くないはずだと思います。おなじみ様の中には、紋屋に一歩入ったとたんに、「条件反射で癒されてしまう。一年に一度、紋屋にくる事が自分へのご褒美」とおっしゃって下さるお客様もあります。なにか魔法にかかったように、紋屋のファンになって下さるお客様は、きっと出来る範囲でこつこつとやっているもてなしの積み上げに、気付いて下さるからなのだと思います。先日のお客様は、「ここも建てなおしたらまた来るよ。」とおっしゃっていました。建てなおせないので、多分もういらっしゃらないと思いますが、期待に添えないおもてなしだったにもかかわらず、建てなおしたらとおっしゃって下さったのは、少しは何かを感じて下さったからなのかなと私は思っています。
当たり前かもしれませんが、温かさとか優しさ、アットホームな雰囲気とそれでいて気持ちのいい接待。できる範囲での精いっぱいさ。お客様の気持ちに懸命に近づく気持ちのようなもの。お客さまがほっとできるようなおもてなしをご提供できたら、きっとそれだけでも紋屋の財産です。
今現在紋屋のありがたいお馴染み様は、なんとなく漂っている紋屋の空気をさりげなくご理解いただいている方々です。これからも、そうした何やらほっとできるものをお届けできる旅館でありつづけたいと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆
家内と車で出かけた折り、ライトを点けたまま走ってきた対向車を見た家内は、「トンネルのまま点けてる!」と叫ぶ。私が“せかちゅう”と言うと、「ちゃんと“世界の中心で愛を叫ぶ”と言いなさい」とたしなめるのだから、あなたも『トンネルでライトを点けたまま消さずに走ってる!』と言いましょう。

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