接客業の裏側
皆さんは、どういう思いで旅をなさるのでしょうか。場所を変えると気分も変わるので、ちょっと旅行にでも行って、疲れを癒そうか、と思うのでしょうか。または、お子様がいらっしゃるおうちなら、夏休みなどは、子供さんをどこかへ連れて行かなくては、ということもあるでしょう。
また、親孝行の為の旅行、お世話になった方をご招待してのご旅行。お祝いの為の旅行。様々なご家族様の深い思い入れを伴うご旅行の場合もありますそうした思い入れの強いご旅行は、私たちも、何時もより何倍も頑張らなくてはなりません。もちろんどのお客様も大切なのは言うまでもありませんが、失敗が出来ないプレッシャーがかかってきます。
しかし、何時もお客様の前では、自然に笑顔が出て、お客様の喜んでいるご様子を拝見させて頂くことが、ことのほか好きな私達でも、夏場だけは、本当に辛い仕事ではあります。何も知らない方は、おかみというものは、きれいな着物を着て、しゃなりしゃなりしているだけと思っている方も少なからずいらっしゃいます。人の気も知らないで、「憧れてます。大変なんですか?」などと平気で聞いてくる人もいて、閉口します。忙しい時のチェックイン作業は、経験しなければ判らないかもしれませんが、想像を絶する忙しさです。どういう訳か、別々のお客様も連なってご到着されます。そのなかで、マッサージや別料理、アロマオイルトリートメント、貸切風呂の手配、その他の細かなお客様のご要望の伺いなどがあって、館内電話と館外電話が鳴り続き、既にご到着なさったお客様がフロントに用を足しにいらっしゃるのです。
そうしたことが、4時間くらい続いて、夜はお部屋まわり。翌日の午前中は電話の応対と館内の点検などで、あっという間に時間が過ぎます。毎年この季節は、気力だけで立っている日が何日もあります。
接客業の場合、大概お客さまがいらっしゃらない時間帯は、冷房はありません。一日中着物の私は汗びっしょりです。何もしなくても暑いのに、紋屋は階段だらけで、全ての仕事が手作業です。客室係は、お客様のお部屋に入る前に息を整えて、汗を拭いて、そして笑顔で入室します。
お部屋の備品のセットをするのも冷房なし、階段を上ったり下ったり、体力勝負です。オンシーズンは、お休みもオフシーズンより少なくなります。毎日忙しいのは、とてもありがたいことですが、やはり疲れは限界をはるかに超えます。そうしたなかで、深い思い入れのご旅行の方がいらして、私たちのミスが発生したとき、肉体的な疲れの他に、辛い精神的な疲れが加算されます。私は、お客様へのお詫びやお客様のお気持ちの修復に力を注ぎ、そしてミスをした本人にも、励ましの言葉を掛けます。調理場さんに、関係するミスのときは、そうでなくても、料理の数などに神経を削っている調理場にも、ねぎらいの言葉を掛けなくてはなりません。しかし、疲れきっているとそれが出て来ない事も多々あります。
お客様に怒られたり叱れたり、それもとても精神的にきついですが、「ガッカリした」といわれると、もうお詫びの言葉も失ってしまいます。いくら後になってお手紙つきのお詫びの品物をお送りしても、本当の意味での修復は不可能です。夏場は、海水浴に朝早くからお出掛けになる方が多いですし、夜は夜で花火などを楽しむかたで海辺はにぎわいます。それに伴い、通常のシーズンにはない、朝から晩まで忙しいという状態で、長い夏を乗り切らなくてはなりません。
フロントは、客室係が退社しても、お食事の時間帯に客室係のヘルプに回るので、次の日の準備など午後10時か、もしくはもっと遅くまでかかってしまいます。かなり遅い時間に一泊朝食のお客さまが入る時などは、ご到着をずっと待たなくてはなりません。
このシーズンは、お客様も海水浴で疲れていらっしゃるので、体調を崩しやすいですし、食材の管理にも、何時も以上に気を使わなければなりません。紋屋は、離乳食もかなりの数を承りますし、アレルギーがある場合や、お嫌いな食材を伺っているので、調理場さんも気力だけで働いている状態が続きます。なにか、いろんな思い入れをもって期待してこられるお客様をお迎えする私たちは、毎年夏は、体力と気力の限界との狭間で、このシーズンを気力で乗り切ろうとしています。そんなことでいいのでしょうか。少しでも、大変さを軽減し、質のいいおもてなしをご提供しなくては、疲れを癒しにお越しになるお客様に申し訳ない。いつもそう悩みながら、夏が過ぎ秋になっていました。今夏は、客室係りの夜の勤務ローテーションを私が決めました。どこの部署もギリギリの人数なので、皆、休みを与えたがらず、皆が一斉に倒れてしまいかねない状況を招きます。かなり無理をしてでも、必ず一日の休みを取得させ、少しでも疲労回復をはかって現場に臨まないと、お客様にとって取り返しのつかないミスが増えてしまします。
一時一人でも欠けると大変さは数倍になりますが、私は共倒れよりは休息を選びます。昨年はどの従業員も半日の休みを重ねて、一ヶ月に三日ほどの休日でした。夏の終わりには、みんなの表情がどんよりとしてきました。それを少しでも回避するため、私は一時の大変さがあっても、約束された休日を与えるようにしたのです。
オンシーズンに質の良いおもてなしを実現させることは、どこのサービス業もきっと苦労していると思います。有り余る人数を雇用できないからです。それでも食事処を造ったり、外部からスタッフを呼んだり、様々な小さな工夫をしてきました。
みんなが疲れて表情が固いなか、きっと本人も疲れているだろうに、紋屋ではニコニコしているスタッフがいますが、本当に立派です。私も疲れとストレスをなるべく貯めないように自分自身も工夫していきたいと思います。せっかく期待していらっしゃるお客様を大切にするために。これから秋になって早く涼しくなることを望みます。皆様、夏の疲れを早く取って、お元気でお過ごし下さい。
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◆素顔の女将◆
天気予報で台風がやってきそうな感じ。「四国が水不足なんだから、あっちに行ってやれば良いのにねぇ」と私が言うと、「そうよねぇ、その方が親切なのに」と家内が応える。台風に親切心を求めても、無理でしょうねぇ~(笑)
(by aruji)

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