来た道、行く道
木造の建物は、鉄筋の建物より結構色々な音が響きます。以前、新潟の立派な木造の宿屋さんに研修で行ったら、お隣の話し声が丸聞こえで、『ここでは、ひそひそと話さないといけないね、こんなに立派なのにね。』と夫婦で言い合いました。
鉄筋でも建物がだいぶ古くなると、上の階で掃除機をかけると、かなりうるさいです。小さい子供がどたばた歩けば耳障りです。マンションなどに住んでいる方は、想像がつくと思います。紋屋も古い建物ですし、木造部分もあります。お子様連れが多く、結構声や音等のクレームは少なくありません。
しかし、単純に小学生くらいのお子様が騒いで走り回っていると言う事が多いのではなく、上に建物がないのに、上の階から子供が走るような音がするとか、2階のお部屋でお隣は空室、反対側は小さいアロマルーム、下の階は風呂という位置にあるお部屋のお客様が、隣の部屋の子供がうるさいと言ってきました。そのお部屋の方もお子様がいらっしゃるのに、他のお子様の音は気になるのです。
お客様のお気持ちや状態を真摯に伺わなければならないので、その時はとにかくお調べした結果をお知らせし、お客様の言いたい事をお聞きし、その日は、お部屋がほかにあいていたので、「他の部屋に交換することも出来ますよ」とお話して辞去してきました。
そうしたら、それで気持ちがおさまったのか、また、それ以降は静かになったのか、何もおっしゃらずにことがすみました。恐らく考えられるのは、そのときは1階のお部屋のどこかのお子様が、少し足音をさせていたものと思われました。先日も、やはり隣の部屋の音がうるさいから注意して欲しいと、お客様からフロントに電話がありました。そのお客様は、当日フリー(予約無し)でいらしたお客さまでした。
眺望が良いほうがいいと思い、2階のお部屋をご用意しましたが、両隣はお子様連れでした。お電話を頂いたのは、お布団も敷かれてしまったあと。こちらがお願いにあがるには、少し遅いお時間でした。
ともかくこのときも、お客様の言いたい事をよくお聞きしてみました。隣からとんとんとんとずっとたたくような音がしている。私たちのテレビの音がうるさくて、消して欲しいと言うことなのか、確かめて欲しい。これでは寝られないから、とおっしゃいます。
木造の建物は、音がどういう経由で響いてくるかわかりません。もし万が一、まったく寝静まっていらしたところに伺ったら、2次クレームになってしまいます。
まずはお詫びしてから、音と言うのは、かなり違った角度から響いてくるものなので、特定は難しいと言う話をしました。そして今日は一部屋も入っていない、離れが空いていますから、そちらはいかがでしょうと水を向けてみました。
「こっちに移動しろって言うのか」といわれましたが、もしお願いできましたら、と申し上げてみました。お荷物は全部こちらで移動し、新しいアメニティーもご用意し、色々な音のトラブルのお話などもして、とりあえず丸くおさまりほっとしました。色々な判断がもう出来るお子様の場合は、こちらもやはり大人のお客様にもお願いします。お越しの皆さまが、同じようにゆっくり出来なければ不公平ですから。なるべくどのお客様にも、ある程度のほかのお客様への配慮をしていただけると助かります。
建物上の事は致し方ないです。ともかく私たちに出来ることは、お客様のお気持ちを充分にお聞きする。出来る範囲でやれることはする。ということであり、何よりそれが一番大事ではないでしょうか。
私どもの宿は、本当に生まれて数ヶ月のお子様連れもいらっしゃる宿です。夜泣きなどの心配もあります。いつもそうした音の問題とは、隣り合わせです。もちろんできる範囲で、お子様連れの隣はまたお子様連れになるようにはしていますが...。私は、両親から躾はかなりきびしく育てられました。人前で騒ぐようなことはもちろん、タクシーや電車に乗るときの足の置き方など、かなり小さい時から教えられました。長傘を振って歩いたり、斜めにして持ったりすると、後ろの人を傷つける可能性があることや、普段の言葉遣い・所作なども、どこへ出ても恥ずかしくないように幼児のころから身につけさせられました。
そのかわり、たまにははしゃいで、子供らしく活発に遊ぶと言うことは皆無でした。汚いものは、触らせてもらえませんでしたし、危ないものも手を切るとか転んだら大変とか、いつも体験はなしでした。私の息子にも、つい同じように躾ようとしてしまい、ご近所の奥さんから、たまにはやりたいようにさせてあげる事も大事よと言われました。
子供だからと、放任し叱りもしないし、他の方への迷惑をかけても平気な顔というのは困ります。ただし、子供を嫌がり露骨に嫌な顔をなさるというのもいかがなものかと思います。私自身、子供を育てた経験があっても、一人で出かけているときにそばで1,2歳の子供がずっと大きな声で話していると、少しいらだった気持ちになることがあります。最近の私は、高速バスの中ではしゃいでいるお子さんがいると、はじめは気になりますが、もっぱら眠ることにしています。気の持ち様で、同じことも違って見えることもあるのではないでしょうか。
『星の王子さま』には、「大人は誰もはじめは子供だった」という言葉があります。過ぎてしまえば、子供だったときの気持ちを忘れてしまいます。お年寄りの気持ちは、年を取らなければわかりません。しかし、誰もはじめは子供であり、必ず年を取るのです。お子様に対しては、子供の目線で物を考え、お年寄りに対しては、将来を想像する、いつもどんな人にも、思いやりが大事です。私たちサービス業に従事する者、どのかたにも同じように、気持ちよくお過ごしいただきたいと思っています。しかし、やはり横柄なお客様より、感じのよいお客様のほうが、一生懸命して差し上げたくなるものです。私たちも生身の人間なのですから。
宿屋では、さまざまな事件が毎日起こります。そのたびに、毎回本当にいろいろな事を考えさせられます。これほど、色々なことを頻繁に経験する職場も珍しいかも知れません。クレームであっても、私は日々発生したことを必然とみなして自戒し、出来る限りのことをする。そして勉強していこうと思っています。
まだまだ至らない私ですが、みなさまから教えていただくさまざまなことを大切にし、自分としての考えもしっかりもちながら努力していこうと考えています。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆
紋屋のフロントは、お客様が腰掛けてチェックインの記帳をする形式。お客様は縁台に腰掛けるが、フロント側ではカウンターの内部でしゃがんでお客様と応対するようになる。繁忙期は組数が多く、頻繁に立ったりしゃがんだりが連日続くと、坐骨神経痛のある家内には相当こたえるらしい。可哀想に......。(by aruj)

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