心に残る一夜
先日、とてもお人柄がやさしいご年配のお客様がお越しになりました。お年が
88歳と書いてあります。(米寿なんだ!)と思いました。
この日は、こちらのお客様と今回で宿泊が3回目のご夫婦の二組のお客様が、
お子様のいらっしゃらないお客様でしたので、個室風お食事処で夕食をご用意
しました。
3回目のお客様も私がお目にかかったのは初めてでしたが、ここの宿をとても
気に入って下さっているそうです。ありがたいですね。
ご長寿のご夫婦は、お聞きしてみたら奥様も84歳だそうです。ご夫婦そろっ
てお元気と言うのは、なんとも素晴らしいことです。80代の方々は、皆さん
戦争を経験し、生まれた年の出来事なども、暗い内容の事件ばかり。一番夢を
追って楽しめる時代を戦争によって犠牲にさせられた人たちです。
私たちの宿は、一部4階建てなのに階段だけ。エレベーターがないので、お越
しになってからお部屋移動と言うことが少なくありません。旅行会社には、エ
レベーターがない旨をご案内する約束になってはいます。しかし、伝わってい
ない事がしばしばあります。
建物上の理由もあって、なるべくお若いお客様をターゲットにしています。本
来なら、ご年配のお客様にも優しく、居心地がいい宿でありたいのですが、う
まくいきません。
そのお客様は、「ここの宿はみーんなやさしい、感じがいいねぇ」と感心して
くださいました。特にこれと言った特別なサービスはしていないのに、そのよ
うに感じてくださるのは、そのお客様がお優しいからなのだと、私は思いまし
た。
お食事処がいっぱいな時は、私にご機嫌伺いしてほしくないお客様もいらっし
ゃるので、いつもほとんど顔を出しませんが、その日はお食事処は二組でした
ので、お伺いしました。
3回目のご来館のお客様は、今まではいつもお部屋食だったので、なんとなく
落ち着かないそうです。恐らく喫煙なさるようでしたのに、お食事処は禁煙な
ので、居心地が悪かったのでしょう。申し訳なく思いました。
それからご長寿のお客様のところへいき、ご長寿をお祝いして差し上げると、
お隣のブース 先ほどのお客様も一緒になって拍手をしてくださっています。
私は、感激で鳥肌になってしまいました。
そして、先にお食事を終わられたご夫婦は、ご長寿のお客様のブースまでお越
しになって、「おめでとうございます」とおっしゃってくださったのです。な
んというすばらしい光景でしょう!
ご長寿のお客様は、戦争中は空軍で、今生き残っているのが不思議で仕方がな
いとおっしゃっていました。若夫婦様のご主人様のお父様は海軍で、やはり苦
しい時代を生きられたそうです。奥様のお父様も90代だとおっしゃっていま
した。
私の父ももう82歳ですが、それくらいになると、元気具合が人によってかな
り違いがあり、こちらがお祝いしようと思っていると、「まだ若いですから」
と言われてしまうこともあります。
そうした難しい面もあり、それとなくお伺いしてみるのですが、この日は、お
祝いして差し上げている私が一番感激したように思います。人間としてうまれ
て来てよかったな。宿屋に来てよかったなと、このようなときは素直に喜べま
す。
今は、自分だけがよければ良いという若者が少なくありません。本来は、いつ
も他人を思いやり、優しい気持ちでよそ様に尽くすと、その幸せが自分自身に
返ってくるものだと思うのです。
きれいごとを言っている私も嫌いな人は居ますし、いつもそばに居るのが当た
り前な人に、やさしくして上げ続けることの難しさをいつも痛感しています。
それだけに、喜んでくださるお客様の表情は美しい。また、一緒になって喜ん
でくださったご夫婦の笑顔も、私にとって忘れられないものになったのでした。
レストランでも似たような場面を見かけますが、一緒に拍手し喜んで差し上げ
たとしても、なんか一瞬すぎて、こんなこともあったな。みんな調子に乗って、
そのばの雰囲気だけで、拍手している感じもなくもありません。
今回はどちらのご夫婦も、きっととても幸せな気持ちになったと思いますし、
本当に心に残る一夜となりました。
接客の仕事だからこそ、こういうこともある。接客業が好きな人は、みんな時
々発生するとっておきの出来事にひきつけられているのかもしれません。
皆様の毎日にも、良いことが少しでも多くありますように、お祈りしています。
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◆素顔の女将◆
昼食のとき、家内が入れてくれたカップスープを飲んだ。『まろやかでコクの
あるスープ』と印刷されていたが、どう味わっても味が薄い。不思議に思って
カップの中を見ると、指定された位置よりはるかに上までお湯が入っている。
恐らく家内は、お湯を入れる量など全く考えずにドボドボと入れたのだろう。
おかげで、『まろやかすぎて味とコクのないスープ』になっていた。(;_;)
(by aruji)

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