ホテルと和風旅館
私は恥ずかしながら、以前は断然ホテル派でした。旅館では他人と一緒にお風呂に入るのに抵抗を感じましたし、ホテルのプライバシーを重視している点が気に入っていました。好きな人と二人でロマンティックなデートをするのも、ホテルの方がおしゃれでゴージャスなムードがあります。旅館はホテルに比べると、何やら古ぼけた印象が私の中では強かったのです。
日本旅館は大浴場に力を入れていますので、客室の内風呂は大抵、一般家庭のお風呂と大差ありません。客室係にはチップをあげないと、何となくきまりが悪いですし、布団敷係が、せわしくどやどやと入ってくるのも好きになれませんでした。私が育った時期は、近代的なホテルがたくさん出来た時代でもありましたし、洋式のスタイルが格好良い様に思えたのかもしれません。
でもよく考えてみると、私の小さい頃は毎年、お気に入りの純和風旅館に行っていました。好きな部屋があり、眺めが良く落ち着けて、第二の我が家のようになっていました。いつも同じ部屋を指定して泊りに行っていました。そこへ行かなくなったのは、すっかり近代的なホテルに建て替えられてしまったからでした。
最近の立派なホテルは、確かにバスルームなどがとてもおしゃれに出来ていて、自分の家にもこんなバスがあったら素敵だなぁと思います。でも一般的にそういうホテルは少なく、大概、狭々としたバスでカーテンを閉めて入るのは、余りくつろげるバスタイムとは言えないと思います。アロマもホテルで体験してきましたが、外出着でアロマルームへ行かねばならず、服を脱いでからトリートメント後、また服を着て部屋まで戻らなくてはいけないので、かなり面倒でした。
食事の時も、ホテルではルームサービスでも無い限り、外出着で出掛けなければいけませんが、旅館なら浴衣でくつろげます。中途半端にホテル形式な旅館も浴衣はOKですが、レストラン食で、部屋は狭いツインルームだったり......。和食は料理店で食べると、懐石など高価で、しょっちゅう行くわけにも行きませんが、和風旅館は宿泊代込みですから、部屋でゆっくり豪華な和食を楽しめ、一晩過ごす事が出来ます。客室係や女将が着物姿なら日本情緒を感じますよね。(紋屋では今のところ、残念ながら客室係は着物ではありませんが.....)
最近の家屋は洋式なスタイルで造られており、畳の部屋で食事をしている家庭は少なくなってきていると思います。生活スタイルもだんだん洋式になり、日本情緒は失われて行く一方です。合理的な面や便利な点をどんどん取り入れて行くに越した事はありませんが、日本独特な“らしさ”や良い面は、何とかして残して行きたいものです。和風旅館では、庭園や坪庭には灯篭があって、夜になると明かりが灯り、風情があります。たまには布団で、畳の部屋で休むのも、今や非日常的な事になりつつあります。
食事の関係で成人病の方が多くなったり、精神的なストレスを溜めた人が増えています。そういう今だからこそ、かえって和風旅館で人と人との温かさに触れ、日本らしい建物や庭園、日本の陶器や書画、生け花やお香など、和の生活様式に「新しい懐かしさ」を覚えてみるのも、くつろぎにつながって行くかもしれないと思うのです。今の若い方々は、反ってご年配の方々より私の挨拶を喜んで下さって、「畳の部屋でたまには食事をしてみたかったんです」とおっしゃっています。この事は、紋屋が和風旅館だから書いているのではなく、今の若い方々のお声から、「そうなのか」と逆に気づかされたのです。
ただ最近のお客様は、ホテルと旅館の区別が付かなくなってきて、困る事が時々あります。例えば、チェックインとチェックアウトの時間です。ホテルはほとんどの部屋が2人使用で、部屋で食事もしません。掃除が終わり次第、順次お客様を入れて行く事が可能ですので、チェックインは早く、チェックアウトは遅く出来るのでしょう。でも旅館の場合は、その部屋によって2人使用だったり5人使用だったりします。紋屋では男女別の浴衣ですから、どの部屋でも良いという訳には行きません。部屋のタイプもバス付きだったりバス無しだったり、旅館によっては新館旧館もあります。お料理もいろいろなランクやコースがあるので、担当する客室係も事前に割り振りしておかなければいけません。
そうは言っても、お客様のご要望が多くなれば、早いチェックイン、遅いチェックアウトもできるよう、努力しなければと思っています。日本旅館には、ホテルと違う事情がある事もご理解いただきたいと思うのです。
今では私は、ホテル・旅館それぞれの良さも良くないところも理解し、どちらに泊まるのも楽しめるようになりました。紋屋は和風旅館です。ホテルと旅館の区別を付けた上で、わざわざ紋屋をお選びいただけるように念じ、仕事をしています。新鮮な空気を胸一杯吸って美しい海を眺め、美味しい食事をして、浴衣姿でのんびりと、たまにはぼぉーとしてみませんか。せっかく旅に出たからと、忙しく近隣の観光施設を見に行くだけが旅行ではないと思うのです。
主人と私からのひとつの素朴な提案です。
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◆素顔の女将◆
東京ドームの隣に、タワーのような東京ドームホテルがオープンする。近いうちにパーティーがあるので、一緒に泊まってみようかと家内に聞いたところ、「ホテルからナイターが見えるかなぁ」と言ってドームだった事を思い出し、「気が付いたから書かないでよぉ」と言われた。フフフフフ、もう遅い。 (by aruji)

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