お礼状
前職では、直筆による顧客作りをしてきました。
お客様との会話を書き留めて、印象深い手紙になるよう、心掛けてきました。
紋屋でもご宿泊いただいたお客様へのお礼状書きは、私がしています。
以前は主人が書いていたのですが、交際時代の私の手紙の文章が主人に気に入られ、私の仕事となりました。
(もしかしたらおだてられたのかもしれませんが?)
お客様によってはお忍びの方もいらっしゃいますので、基本的にはアンケートにご記入いただいたお客様に送りしていますが、アンケートご記入以外のお客様でも、会話が弾んだお客様や口頭でご感想をおっしゃって下さったお客様にも、必ずお礼状を出すようにしています。
仕事柄、出張でよく主人と都内のホテルに宿泊しますが、主人は何か気が付いた事が有ると、大抵アンケートに記入しています。
先日もTホテルからアンケートへの礼状が来ていました。
さすがに日本を代表する名ホテルだけに、都心のホテルの中では比較的早く来たのですが、残念ながら全てワープロの文章でした。
丁寧な文章ではありましたが、何か心のこもらない気がしました。
私共のような小さな宿と違い、一日何百人もご宿泊されるので、アンケート枚数もさぞ多い事とは思いますが、せめて署名だけでも自筆であったらと思いました。
私は自筆で一枚一枚、お客様を思い起こしながら毎日書いています。
うまく筆が進む日、進まない日があり、字も上手へたがその日によって違いますが、心を込めてお書きしています。
沢山のお客様の色々なご要望を全部叶える事は出来なくとも、今後の宿作りにお客様からのお声は欠かせないものです。
アンケートに一言でも文字が書いてあれば、尚更に書きたい気持ちが募ります。
今年の春の事、大阪の方からあるお客様がいらっしゃいました。
お越しの前に何度も何度も問い合わせのお電話を頂き、たまたま全ての電話を私が対応した為、その方が遠くからお越しになる事を心待ちにしていました。
ご到着の時、「思ったよりも遠かった」と、とても疲れたご様子で時刻も早くはなかったので、ご挨拶は遠慮しました。
お帰りになられた後、アンケートを拝見したところ、よかった点に接客とあり、ご不満な点に施設の古さによる構造上の問題などが数点上げられていました。
その方のお越しを楽しみにしていただけに、しかも接客はよかったとあるのに、やはり古い建物ではがっかりしてしまわれるのだなぁと、とても残念に思いました。
お礼状には、私の素直な気持ちを控えめに書いてお出ししました。
するとそれからしばらくした後に、分厚いお手紙が私の元に届きました。
それには、紋屋に言ってとてもよかったと思っている事。
紋屋に行く事に決めたのは電話の応対がよかった事。
よくなかった点とこれから期待する点が箇条書きにしてあり、紋屋を応援する気持ちからわざと辛目の点数を付け、感想を書いた事などが説明されていました。
そして最後に、
紋屋の応援団の一人
 〇〇〇〇
と署名がしてあり、その時は嬉しくて涙が止まらなくなりました。
このお便りの事は、私は多分一生忘れないと思います。
このお客様のためにも、時間は掛かってもいつか立派な宿となるよう努力して行かなくてはいけませんね。
昨年の11月頃から、お部屋にご挨拶に伺っている事もあり、お礼状に対するお礼状も沢山戴いています。
もちろんメールによるご感想も頂戴していて、私の大切な財産となっています。
繁忙期は山のようにお礼状書きが溜まりますし、今年の夏は、アンケート用紙に小さな字で書ききれないくらい沢山のご感想を書いて下さるお客様が多く、アンケートの枚数も過去最高となりそうです。
それは、紋屋のおもてなしのスタイルや気持ちが通じた結果なのかも知れないと思います。
もしかしたら、このお礼状書きが私のメ-ルマガジンの執筆のよい練習になっているのかもしれない、と最近は思います。
ご滞在中おきたトラブルへのお詫びの手紙に対しても、「あんな事を書いて申し訳なかった」というお返事を随分と戴いています。
やはり、誠意は通じるものなのですね。
また私がお礼状を出す前に、とても感動的なお便りを戴いた事もあります。
その方達は初めてのお子様を身ごもって、夫婦二人きりでお出かけになる最後の旅をなさりにいらした方々でした。
その時は、あまりにも初々しいお二人に思わず、
「失礼ですが、奥様はご懐妊ですか?」と伺いました。
「そうなんです。もう二人で来られるのは最後と思って」というお二人。
「おめでとうございます。元気な赤ちゃんを産んで下さいね。 最近のお若い方はやさしいので、きっと手伝って下さると思うんですが、 子育ては本当に大変なので、ご主人様、どうか奥様を気遣ってあげて 下さいね。そして奥様、なかなか余裕は無くなってしまうんですけれども、 ご主人様はいつも自分を一番大切にして欲しいって思っているものだという 事を忘れないで上げて下さいね。余計な事なんですけれど.....」
と申し上げました。
とても初々しい可愛らしいご夫婦。
私は夫婦二人だけで旅に出られるのが最後だからといらっしゃるご夫婦をいつも微笑ましいと言うか、頑張って欲しいなという思いでお迎えしています。
子育ては大変であり、夫婦にとっての大事業です。
子供の誕生によって恋人の延長のような夫婦が、急に父親と母親になっていきます。
誰もが経験していく事とは言え、私は父親になっても母親になっても、やはり夫婦と言う絆を何よりも大切にして欲しいと言う気持ちがあります。
このお二人は、お二人だけの最後の旅に様々な思いを込めてお越しになり、しかもゆっくりしたいと思っていらっしゃいました。
客室係も年配の女性で、自分の子育ての話しなどしたそうです。
その後その奥様から、
「突然のお手紙でびっくりされたここと存じますが、当日、皆様にお礼を 申し上げただけでは、何か物足りないと感じ、お手紙を書きました。」というお手紙を頂戴しました。
そこには、女将のアドバイスと笑顔がとても心を和ませてくれた事。
今まで尋ねた和風旅館は言葉遣いは丁寧だけれども堅苦しく、自分達の間に一線を感じるものだった事。
紋屋は丁寧な中にも大変親しみが持てる感じがし、心底リラックスできた事。
朝食会場でお子様連れのお客様を見て、自分達も子供が産まれたらまた家族で伺おうと話された事 などが書いてありました。
余計な事と思っていたにもかかわらず、このようなお礼状を戴き、反って感動してしまいました。
これからも接客やお礼状書きを通じて、お客様との心の交流を図っていけたらと考えています。
気温は暑くとも、もう海の色は深く、秋を告げているように思います。
夜になるといくらか風が涼やかになります。
海風に耳を澄まして紋屋を見上げると、今夜もご宿泊のお客様のお部屋に燈が灯っています。
その燈が灯すやわからな光がいつまでも消える事が無く、少しづつでも紋屋が成長していくように頑張っていきます。
紋屋のファンになって下さるお客様、どうか見守って下さいね。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

◆素顔の女将◆
「いい話しが書けそうだなって気がしたら、その時に書かないと書けないの。後で書こうと思っても出てこないのよ。」と家内が言う。芸術家肌と言いたいらしいが、私には便秘症らしいお言葉としか思えない。いや失礼。m(_ _)m (by aruji)

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