◇ 今までを振り返って ◇
跡取り息子が紋屋に帰ってきました。

まだまだ幼いというか、まだ若いのだなと思うことが多々あるものの、やはり若い力が紋屋に入ってくるのは嬉しいものです。

他で勉強してきたことを、この機会に紋屋の従業員達にも知ってもらい、より良い宿にしたいと思います。

息子が修行から戻ってくるほど、私たち親は年を取ったとも思います。

そして、紋屋に来てからの年月を振り返ると、本当に大変な11年だったと思う今日この頃です。



若いうちに嫁に来ても苦労はあったでしょうが、私が再婚して嫁に来たのは40歳頃でしたから、大女将は67歳、もうお客様の前には出ていない状態でした。

おかみをやらなくても良いという条件でしたが、一般社員として入社しているのに、やはりおかみ的な存在を従業員達が求めている部分がありました。

老人クラブのバスのお見送りとかバスに乗っての挨拶など、その頃しきりに大女将は、係り達にするよう言っていました。

その役が結局私に廻ってくる。
頼まれれば、私は断ることが出来ませんでした。


デパートにいた経験から、最初は売店に立ち、売店のレジや陳列など、それは売店の担当に習えましたが、フロントについては、何を聞いても「私は習ったことがないので教えられません」と誰も教えないのです。

自分でひとつひとつあたって覚えるしかなく、とても覚えるのに時間がかかり不効率でした。


入社してまだ2,3日だというのに、お昼の休憩その他で事務所に一人にされ、いろんな電話応対で何を聞かれても分からず、汗だくになりました。


マニュアルが無く、教える人もいない。

それでは今後誰が入っても困るだろうと思いました。


とにかく私が困ったり分からなかったりしたことを、新しい人が来たら教えました。

そしてその人に、
「今後は新しい人に、あなたがこうして教えるのよ」と伝えていきました。

まだ十分ではありませんが、こうして3年かけて新しい人がきても、困らない体質にしました。


社長の奥さんだからなんでも知っている?
そんなはずはありません。


2度目の奥さんというのも、好奇の視線と冷ややかな態度が感じられ、都合の良いところだけ任されたり、頼られたりしていたのです。

係り達も、料理を立ったまま平気で出す。
言葉遣いや所作など、目を覆いたくなるような接客をしていました。

私より20歳くらい年齢も上な人たちばかりですし、全員大女将の息がかかった人達。

ともかく最初の1年はじっと我慢。我慢の上にも我慢の毎日でした。



売店に立っていてお客様をお見送りしても、何かぴんと来ないものがある。

この宿には老人クラブと保険契約の会社関係のお客様しか、ほとんどリピーターさんがいない。

それは、おかしいのではないかと考えました。


私は、東京都下の百貨店で顧客率が常に60パーセントを超える売り場にいましたので、驚くだけでなくかなりテンションがさがりました。

私は接客の仕事が大好きです。
「私は自分の力で必ずリピーターさんを作ろう。」そう心に決めました。

そして自分の考えで、お部屋への挨拶回りが始まったのです。

お部屋に行けば、いろんなヒントがお客さまから得られます。

一つ一つ積み上げて、そのひたむきさに応援してくださるお客様がでてきました。

お客様とのコミュニケーションから、いまは紋屋では当たり前になっている、赤ちゃんプランが誕生したのです。



以前、あるおなじみ様からお手紙を頂きました。
内容は、私が一生懸命やっている姿に感動しながらも、
中で働いている人達は旧態依然としている空気が漂っていた。
けれど、いつの頃からだったか、空気が変わった。
それは、おかみが諦めなかったから。
普通の人だったらきっと諦めてしまうのにすごいと思った、
と言う内容でした。



調理場の人達が怖いという印象もありました。
克服するのに2,3年かかりました。

昔はよく調理場の人が包丁を持って追いかけてくる、そのような話しが結構ありました。

実際、その頃の調理人の中にもそれに近い人がいました。


最近やっと本当に心の底から怖く無くなくなりました。

こわくないだけでなく、やっとコミュニケーションが取りやすくなってきたところです。


事務所から時々顔を出しているだけでは、
やはり距離は縮まらない。
私が接客係として食事処に入り、
実際にお客様からのお声を頻繁に届ける。
お客様の反応を見、私自身も試食会以外で頻繁に料理を目にする。
問題点が色々出てくる。それを常にディスカッションする。


調理場に限らず、誰でもコミュニケーションが大事だと改めて感じました。

実際、4,5人くらいなら、かなり濃いコミュニケーションもとれますが、30人を超えると、全ての人と、濃いコミュニケーションは難しいです。

それでもなるべくそう心掛ける。

経営者としてその手腕をこれからの10年さらに磨いていかなければ、今までの長年の苦労が報われるときが来ません。



先日、東京へ行ったとき、電車内で隣に女の子がふたり、話しこんでいました。その内容が

「結婚するなら楽な人がいいよね」
「私も楽が良い」

そうか楽が良いのか。

でもきっと楽だと人間成長しませんよね。

今までの苦労をすべて書き尽くせませんが、これからの10年はその苦労が実る充実した10年にしたいと切に思います。


皆様も来年が良い1年でありますように。



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◆素顔の女将◆
伊達巻の大好きな家内のために、年末年始しか売り出さない、普通より高級な
伊達巻を2本、母が買って来た。もらって帰り、自宅の冷蔵庫に入れてあった
が、夜分に冷蔵庫を見ると、まだお正月前だというのに既に一本の半分が食べ
られていた。

「そんなに早く食べちゃうと、お正月の分が無くなるよ」
と声を掛けると、
家内は「けち! せこい!」と声を荒げる。


あの~、ただ心配してるだけで、あなたの伊達巻には手を出さないからね。

お~~こわっ(^^;)


(by aruji)

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