器への愛情
私はもともと陶器、特に土ものが好きです。以前は作家の窯元までよく出かけていました。信楽や益子、萩など、私が気に入っている焼き物です。一時は買える範囲でそれなりに高価な物を買い求めたりもしました。しかし、少しでも欠けたりひびが入ったりするともう価値がなくなってしまうため、もともと貧乏なのに趣味にお金はかけられないと購入はやめてしまいました。今では、安くて気に入るものを時々見ていますが,子供達は関心がないので次々割ってしまいます。夫婦二人だけに成ってから出ないと、趣味の器は集められそうもありません。
今はせっかく旅館の女将をしているのですから、その趣味を生かせると嬉しいですよね。今現在、私が選んだ器は極くわずかです。ハーブティーカップ、洋皿1種、料金が高いお客様のための箸置きや茶碗、茶たく等。自分の色が出せる宿になるためにも、今の器を見るとため息が出ます。これからは献立にも大いに口出しをして、板場と一緒に紋屋らしい料理の演出を考えていこうとしています。器と料理、料理の盛り付け。どれもきって切り離せません。美術館に絵画を見に行ったり、クラシックのコンサートに出かける、ピアノを習う、書をたしなむ、華道茶道を習いに行くなど、芸術的なものに元々関心が深いだけに、自分で一つ一つ選びたいものです。
最近買ってすぐに欠けたり、ひびが入ってしまったものがありました。しかも大量にです。調べてみれば、扱い方にも問題はありました。土物は特にかけやすいので他の重い器と一緒に洗ってはいけません。子供達と同様に、洗い場に立つ人達にも器に対する愛情を感じて欲しいと思います。
自分の働いたお金で買ったものでないと、会社のものはつい粗雑に扱いやすくなるのです。特に旅館は、居食住すべてのものが揃っているので、母によると本人の意識外で宿のものが勝手に私物化されてしまうそうです。そこにあるのが当たり前のため、紛失しないように気をつけたり、壊さないように注意したり、という意識が薄くなってしまうのです。よく壊す人は「また割ってしまいました」と言いづらいために、買えるものは自分で買って知らん振りしている人も居ます。一遍に大量に壊しても黙っているというのはいただけません。その背景には、それを実費で弁償させる、給料から差っ引く、もしくはそうすると脅す等という、良くない実態もないとは言えないのかもしれません。しかし私が企業の一般社員であった頃を思い出しても、ボールペンや包装紙、荷紐、ガムテープの扱いは今より粗雑であったかもしれません。特に、一部署でみんなが一緒の物置き場等の整理整頓は、ひどい状態でした。日本人の特徴でもあるかもしれませんね。
その意識を自分が経営者になってから、はじめて「これは問題だ。」と気づくわけです。しかし、もともと器に愛情がある私は、買ってまだそう日が経ってないハーブティーのカップが大量にかけたときは唖然としました。1回目は、すぐに半分くらいが欠けてしまい補充したのです。ところが、補充してすぐにまた半分程がかけてしまいました。もちろんハーブティーのカップだけを、別に洗う指示は出しました。しかしもったいなくて捨てるに捨てられません。どうしようかと考えながら、しばらく放置していました。
ある時、社長と一緒に勉強のために東京の有名飲食店を訪れたとき、ひびが入った陶器に漆を接いで直してあるものが使われていたことがあります。私たちは、こんなに有名な店でも大切に器類を扱っているんだなぁ、愛情を持っているだなぁと深く感銘を受けたのでした。この頃の不景気で、業者さんの中でも新しい物を買ってもらうだけでなく、安く補修しようという動きがみられます。でも、まだまだ陶器に関しては、その意識が薄いのが実情です。本来は、物を大切にする心は日本人らしさでもあったはずです。何とか成らないものかと考え、たまたま有名飲食店の事をある業者さんに話したところ、「試しにひとつ焼き直しをしてみましょうか?」と言ってくれたのでした。だめで元々と思っていたのですが、修理可能とみなされて持っていったもの全てが修理できたのです。本当に久々の大きな喜びでした。ひとつひとつ丁寧に焼き直しが施され、欠けにくいようにやすりがかけてありました。今まで以上にそのハーブティーカップに愛情を感じました。
戦争を経験した世代の人は、何でももったいないと物を捨てません。それが良いとは思いませんが、物を大切にする心はいつの時代でも貴重だと考えます。これからは、新しい物を買うときにいつも、修理のことも頭にいれて居たいと思います。私は、物に対する執着というか、物を見定めるときの気持ちが、好きなものに対しては特別強いのです。本当に心から気に入ったものを長く大切にしたいほうです。お気に入りだけを使っているとそれだけが痛んでしまうために、私は持ち物を集中的には使わず、数を多くして順繰りに大切に使います。(どうせ消耗するものだ)と言う考えが嫌いです。だからこそ、今回焼き直されて出来てきた器達が、ことのほか愛らしく感じるのです。
たとえ機械で大量に作っているものだとしても、やはり物は大切にしたい。これからは大いに紋屋の器選びに関り、焼き直しをしたりして長く愛せる器たちを少しづづ増やしていきたいと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
◆素顔の女将◆
渓流沿いの宿に行きたいと家内が言う。それも、ちょろちょろじゃなくて、ドバドバ流れる川岸が良いと言う。川って、ドバドバ流れるのかねぇ......(by aruji)*ついでに大女将*
食事中、息子から携帯電話にかかって来た時の事。
家内の用件が終わると、母も話したいと言ったので家内が電話機を渡したところ、携帯電話など使った事の無い母は、しゃべる時にわざわざ耳から離し、顔の前へ電話機を持ってきて「もしもし~」としゃべったとか。息子の顔が写るとでも思ったのだろうか。(by aruji)

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