セールストーク
私にとって、きっと一番合っている職業は、女将ではなく多分、販売の仕事だと思います。経営の仕事をするようになって、もちろんいろいろな新しい発見があり、私の視野は飛躍的に広がったことは事実です。百貨店にあれからもずっと在籍していたら、今の私にはなれていないに違いありません。女将業は自分に合っていないのでは…と悩まないと言えば嘘になるかもしれませんが、自分の天職は接客の仕事という考えは、一生変わらないと思います。だからこそ、今日まで私でも出来るかもしれないとがんばってきました。
宿屋の女将でも、営業肌の方や、経理部門が得意な方、部屋の改装自体が仕事で、表に出ない女将さんも珍しくはないということは、前にもお伝えしました。しかし小さい宿ほど、女将はその宿の看板であり、目印のようなものです。最近、私が気づいたことのひとつに、接客と言ってもいろんな接客の仕事があり、接客が好きでも販売に向かない人、接客の仕事をしているのにどちらかというと職人肌の人もいるのだということを知りました。
先日、私はあるケーキ屋さんで、たくさんのケーキを買ってしまいました。もちろん、もともとケーキは好きなほうです。でも、いっぺんに10個以上も買うことはめったにないことです。もちろん、そこのケーキは格別においしそうではありましたが、東京なら美味しそうなケーキ屋さんなんて特別珍しくはありません。実際に何を買っても、確実に美味しいケーキを味わえるお店も少なくありません。なのに、何故多くのケーキをいっぺんに買ってしまったのでしょうか?
その答えは実に簡単で、要するに販売員の方が良かったからなのです。ものすごく笑顔が良いとか、親切だとか感じが良い等そういうこともなくはないのですが、何よりケーキの説明が上手。ケーキ好きには食べなくては気がすまなくなるように、目の前の美味しそうなケーキを、自分の前でまるで食べているみたいな説明なのです。思わず「これは?」「それは?」と残っているケーキのほとんどを買ってしまいました。気がつくと私のまわりには、何人もの人が次の順番を待って立っていました。きっとその日は完売だったに違いありません。しかも、その販売員は私に「もう少し早くお越しくださっていたら、もっともっとお勧めしたいケーキがたくさんあったのですよ。」と言います。(そうか…もっと早く来ればもっと美味しそうなケーキがあったのだ)という気持ちまで私に残しました。
そのケーキ屋さんは、私がよく行く東京駅にあり、近くに行くとつい、そのお店が気になってしまう私です。でも、その販売員さんがいないと寄る気がしないのです。その販売員さんは、もちろん魅力的な男性ではなく、普通の女性です。しかし、またあの素晴らしいセールストークを聞いてしまったら、私はまたしても買いすぎてしまうだろう...と考えると怖くて行けない..と悩んだり(?)しています。(なんという平和でくだらない悩みなのでしょう)実際に食べてみた感想は、私が想像したものより、正直な所やや劣っていました。もちろん美味しいのですが、その販売員さんのセールストークの方が更にもっと美味しいケーキを連想させたのでした。なんと恐ろしい話術なのでしょう。そう言うわけで、販売の仕事は面白いですし、販売員次第で売れ行きはものすごく変わるということです。
もちろん売る物によっても違いはありますし、売り場面積によっても必要な販売員の性格に違いは発生します。単に人が立っていれば良いところもあれば、なるべく人は目立たない方が良い所もあります。それがまた、販売の世界が楽しいと言える部分でしょう。品揃えが悪ければ、いくら優秀な販売員がいても売上は上がりません。その店ならではの雰囲気づくりも、もちろん大切なことですね。
私は、基本的にいろんな方とお話することが好きです。事務職で、同じ事務所の中の方としかお話できないという環境が好きになれません。不特定多数の方に自由に微笑みかけられる世界がたまらなく魅力的に感じられるのです。そういう意味では、紋屋もうちに泊まる目的や、入浴やご昼食にいらっしゃる方以外の方は入館しない点はつまらないですね。また、皆さん寛ぎにいらしているので、適度にしかお話は出来ません。自分が扱っている商品の魅力を通して、頻繁に何度もご来店頂いて、お互いにその場所を訪れる楽しみや、お迎えする喜びを味わいたいのです。
紋屋を商品と考えるとまだまだ商品開発が進んでいない。今の所、商品よりホームページという販促ツールのほうが先走っているかもしれません。あのケーキ屋さんの話しを聞いて、期待しすぎた私がいまいちケーキより、そのセールストークに魅力を感じたように、私達紋屋の経営陣は、まだまだ努力が不足しています。もちろん主と私が手をつなぎ、やっと今の紋屋が歩みはじめたばかりなのですから、実りはずっと先にちがいありません。少なくとも今はまだ、この紋屋は自分が作り上げた部分が多くないため、「紋屋はこんなふうに素晴らしいのですよ。」と言いづらく、自分が作った部分でないところを勝手に「彼女の趣味かしら?」等と書かれることが悔しいのかもしれません。少しづつではあっても、確実に私の色に染まりつつある紋屋の経営。1歩進んでは2歩後退しているかもしれませんが、私なりにやっと紋屋が進み行くべき道がうっすらと見えて来たようにも思えるのです。販売職は確かに楽しいですが、物の販売以外の領域を決して出ることが出来ません。広い視点で今までよりずっと多くのことを勉強し、女将になって良かった…と心の底から思える日がくることを小さな灯火のように思い抱いて「新米女将のひとり言」の第1幕目を閉じたいと思います。
もともとこのメールマガジンの執筆は、私が文章を書くのが好きだったこと。その上で「宿屋や女将について書いてみない?」と言われて何となく始めたことだったのです。それが今ではものすごく大切で、しかも私にとっても愛着がある仕事となっているのです。これからが主と私との本当の歩みです。更に皆様に愛され、親しまれるメールマガジンとなるように、これからも努めて参ります。今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
◆素顔の女将◆
創刊以来2年間、よく1回も休まずに配信できたものだと思う。拍手しよう。パチパチパチ!
ただ.....
「書けない時は「素顔の女将」特集にするから休刊にしてもいいよ」と言っているので、どうやらそれを恐れて(笑)書き続けていたらしい。(by aruji)*ついでに大女将*
お気に入りのイタリア料理店に家族で行った。レストランの壁に世界的な海洋学者のジャック・マイヨール氏のサインがしてある。その話しをレストランのマスターとしていたら、母が「ジャック・マイヨールって日本人?」と聞く。若句・舞夜瑠とでも思ったのだろうか。そんな奴いる訳ないだろう!(by aruji)

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