やさしさを抱きしめて
私は結婚前、夫婦二人で一緒の仕事をすることを楽しみにしていました。もちろん女将が勤まるかどうかは分からなかったものの、いつも一緒仁いたいと社長も私も考えていましたので、同じ職場ということが嬉しく感じられました。
お互いに違う職業で遅くまで働いていたら、きっと疲れて話をする元気がなくなることもあるでしょうし、すれ違い夫婦になってしまうかもしれません。家事の分担でもめたり休日が合わなかったり、いろいろな問題が考えられました。実際、お互い家業だからこそ力を合わせられると思うことも少なくありません。一緒に過ごしたいと思っている人間にとっては、同じ時間を共有出来ないことはかなりの苦痛です。前回の結婚では、帰ってこない夫を待ちつづけ、結果破綻に追いこまれて行きましたので、余計にその思いは強かったのです。社長も自営業の場合、配偶者の理解と協力が絶対不可欠だと言っていました。そうした意味では大いに幸せですし、これからも社長の為に努力を重ねていくつもりです。
しかし、予想外に辛いこともかなり多くあることを最近になって思い知らされました。お互いの意見がなかなか一致せず、気まずくなることが多いのです。また、お互いに本来は店のためと思っているにも関らず、言い争いも絶えません。単なる夫婦の会話ならいざしらず、店のため従業員のためにどうしても衝突せざるを得ないことに突き当たります。昨年は私が鬱病を患ったため、余計に大変な状況を招きました。
また、社長は紋屋以外の場所で働いたことがないため、他の大小の企業に勤務してきた私としては、(少しおかしいのではないか......)と思うことが余りにも多く発生し、面食らいました。小さな企業においては経営者に対して従業員が意見を申し立てしづらい点もあるでしょうが、そうしたことが長年続くと経営者サイドも自分自身のことについて、気付くべき点に気付かなくなってしまうという問題もあります。そうした点を私が気付き、店のため社長のためと思って知らせるのに、お互いの間がぎくしゃくしてしまい、私も接客スランプに陥る時があるのです。
そうしたことが一昨年、昨年と続き疲れてしまいました。しかし、私は最近になって自分自身がもっと大切なことを見落としていたことに気付いたのです。確かに私が社長に対して訴えてきたことの多くが、正当な意見ではあったかもしれません。でも、私はつい批判精神が旺盛になって社長をおおいに傷つけていたのでした。
私が再婚する前、また結婚に失敗したら困ると悩み、サイコセラピストの本ばかり集中的に読んだことがあります。近藤 裕さんの著書です。今でも私の考え方の基本にもなっていると確信しているのです。その本の中にある一節を皆さんに是非ご紹介したいと思います。この作者がある結婚式に呼ばれた際に、新婦の友人の一人が一遍の詩を紹介したのだそうです。
   二人が睦まじくいるためには、愚かでいるほうが良い
   立派過ぎない方が良い
   立派過ぎるとは長持ちしないことだと気付いた方が良い
   完璧を目指さない方が良い
   完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうが良い
   二人のうちどちらかがふざけている方が良い
   ずっこけている方が良い
   互いに非難することがあっても、
   非難する資格が自分にあったかどうか、
   後で疑わしくなる方が良い
   正しいことを言う時は、少し控えめにする方が良い
   正しいことを言う時は、
   相手を傷つけ易いものだと気付いている方が良い
   立派でありたいとか正しくありたいとかいう
   無理な緊張には色目を使わず
   ゆったり豊かに光を浴びている方が良い
   健康で風に吹かれながら生きていることの懐かしさに
   ふと、胸が熱くなる
   そんな日があっても良い
   そして、
   何故胸が熱くなるのか、黙っていても分かる
   二人であって欲しい
私は生真面目に考えすぎて、そして店のため社長のためと思いこんで、私自身そんなに立派な人間でもなく、人を批判できるほど素晴らしい人間ではないのに、すっかり自分自身を見失っていたのでした。そして誰よりも大切な私のだんな様を深く傷つけていたのです。もしかしたら、お客様のため従業員のためと考えていることも、生真面目過ぎると同じことを招く危険があるかもしれません。気持ちに余裕を持つことも、実力のうち。ほんの少しずっこけでおかしな私の方が社長にとっても他の家族にとっても、従業員にとっても、そしてお客様にとっても良い場合があるのかもしれませんね。
いつも一生懸命過ぎる私。今年は少しでものんびり出来たら......。いつも自分を静かに見つめなおせるようにと思います。私の大切なだんなさまに対するやさしい気持ち、そして今まで私が気が付くことが出来なかった、夫の妻に対する大きなやさしさ。いつも抱きしめていたい。これが今年の私のテーマになりそうです。
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◆素顔の女将◆
パンナコッタが好きな家内は、行きつけのイタリア料理店のパンナコッタの量が少ないのが不満。大盛りにでもしてもらったら?と冗談で水を向けると、普通の大盛りじゃなくてトリプルにしてもらおう!と言う。本当にオーダーしたら、恥ずかしくてもうこの店には行けない。(by aruji)

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