料理への取組
私が紋屋で始めて食事をしたのは、社長家族と私の家族とが顔合わせした時でした。まだ中に入ったことが無かった紋屋は、いつも社長から「たいしたことないから。」と言われていたのですが、想像以上に綺麗でした。また、食べた食事も大変美味しいものでした。私の父は胃が弱く高級素材を食べ慣れている人なので、後で聞いた所社長はかなり気を使い、献立も何度も作り直させたものだったそうです。
全くの素人で入社した私でも、毎日並べられる料理に目だけは通していました。1年ほど経った時、紋屋の鍋物・台の物は、いつもしゃぶしゃぶか朴葉焼きだなあ、煮物もいつも豆腐饅頭、お造りの盛り方も余り綺麗ではないなあ、揚げ物もすごく早い時間に揚げてしまい、すっかり冷めてしまうだろうと素人ながらも疑問点が浮上しては来ました。
季節毎に献立会議(試食会)は行っていましたが、少し目を離すとその会議で決められた通りにはなってなく、既製品に摩り替わっていたことも少なくありませんでした。
4階建てで料理の搬送システムもなく、調理人の人数もぎりぎりで働いてもらっているので、うち程度の旅館は懐石料理店の様なきめ細かい繊細な料理は、そうそう出せるものではないということも、後になって判ってきました。それでも近隣の旅館に比べると調理コストは非常に高いと、会計士さんなどに指摘されていましたので、現状より安いコストでしかも美味しい料理を提供できるよう、試行錯誤しなければなりませんでした。調理人は本来良い素材をふんだんに使い、たっぷり時間もかけて自らの作品(?)に取り組みたいものだろうと思います。しかし、現実は大勢の料理を少人数で決められた時間の中でこなさなければ成らず、非常に厳しいものです。
ここ数年、調理長と脇板、見習の若者がいたのですが、数年前に若者が他の仕事へ変わり、それから3番手は臨時職員で賄っていました。その脇板も腕は良かったのですが、性格的には大変扱いづらい人でしたので、板長は随分と自分を殺して脇板の良い部分が前面に出るように配慮していたようです。
それでも昨年の夏、目に余る事態が起き、その脇板も他の職場へ移されることになりました。それからは、そうでなくても人手不足な調理場は板長一人で、休みも無いまま本当に良く働いてくれました。しかし今迄は、脇板が得意な分野だった献立作りをしていましたので、板長は苦手な献立の作成を任せっきりにしてきたせいもあり、その後の試食会の献立がすべて作りなおしになったりもしました。
私達経営側も、料理の分野を調理場に任せているだけではいけないと考えさせられ、様々な料理の本や婦人雑誌をめくっては試作品を作ってもらいました。話題になっている新しい和食スタイルの店にも足を運び、研究しました。インターネットで新しい素材を取り寄せてみたり、ここ数ヶ月は本格的に調理部門と関わってきました。
私がリピーターさんを随分と増やしましたから、以前は季節毎だった試食会も2ヶ月ごとになりました。1年に何度もお越しになるお客様が私達に良い機会を与えてくださり、常日頃からいつも新しい料理を考える癖もついてきました。私がお部屋を回ってお客様から様々なヒントを頂くので、離乳食に取り組んだり、朝食にパン食を導入したり、今までは幼児のお客様にはいつも決まりきったランチプレートだったのが、お子様膳というかたちでもご用意できるようになり、紋屋のスタイルが少しづつ出来あがってきました。
4階建てなので早い時間に揚げてしまっていては美味しく提供できないので、通常の献立からは揚げ物はなくしてしまいました。そうした工夫のほか、季節感を取り入れるための苦労、いまどきの盛り付けへの研究と、うるさく注文をつけ、それに対して板長は本当に良くやってくれていて、頭がさがります。
本来、調理場の人間は変なこだわりが強く、人の意見に耳をなかなか傾けてはくれないものです。それなのに紋屋の板長は客室係達にまで意見を募り、味見をしてもらったりしています。その柔軟な姿勢や地道な努力は、私達経営陣も励まされます。この頃は試食会も1回で合格になることもあるようになってきました。様々な旅行会社の企画もありその商品によって料理内容もちがうので、対応するのも本当に骨折りな仕事です。今春からは人をそろえ板長も休みが取れるように計らいました。
いつになるかは分かりませんが、いつか紋屋が少しでも経営が楽になったら、板長の給与を1番に上げてあげたいと思います。(もちろんそれは誰へも思う事ですが)本当に心からありがとう。私も板長に負けないように努力を重ねて行きたいと思います。
人は皆更なる向上を目指し歩んでいきます。だいぶ前の歌ですが、私は世界的にヒットした今は亡き坂本九さんの『上を向いて歩こう』が好きです。
     上を向いて歩こう
     涙がこばれないように
     泣きながら歩く
     一人ぼっちの夜
皆一人だけれど、本当の一人ではない。寂しさや苦しさの中にほんのりと燈る温かいもの。人は皆心の温かさに触れ、力が湧いてくるのではないでしょうか。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・◆素顔の女将◆
今回の原稿は金曜日に8割方出来ていたのに、家内の操作ミスで全て消してしまった。連休で忙しいし、こりゃ今回は休刊だな、と内心思っていたが、2時間程度で、それも内容がより良くなって書き直していた。ふ~ん、やるねぇ。(by aruji)●おまけの息子●
新しく買ったとっくりのセーターを着た下の息子が、見せに来て言う。「どう?似合う、トータルネックのセーター」そりゃ、タートルだろう!?全部 首にしてどうする! 高校受験は大丈夫だろうか.....(by aruji)

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