他人の振り見て
社長と私は、仕事で良く都内のホテルに泊まります。同じような職業柄、よそのあらはよく見えてしまいます。余りにもひどい時は腹を立て、アンケートに書いて来たりしますが、この頃は却って参考になることもあるなあと思うようになりました。
先日も社長がフロントで支払いを済ませた時、会計担当者が爽やかな声で「ありがとうございました」と言ったので、思わずその人の顔をみると、もうその人は他の方角を見ていてがっかりしたそうです。そういえば私も「ごゆっくりお過ごし下さいませ」と言ったあと、すぐ後ろを向いてお茶だし係への連絡に走ってはいないかと心配になりました。お客様の目を見てきちんとお声をおかけする。それは基本中の基本です。でも忙しく動いているとつい忘れがちになることも多いように思います。今は職場がそう広くないのでお客様がいらっしゃればすぐ分かりますが、百貨店時代は職場が大変広い上、私服の従業員も多いですし、売り場を離れ社員食堂に移動するなどの時は、もう休みモードに切り替わっていて移動する途中にお客様がいらしても余り気にしない風潮がありました。
今はお客様とお客様以外の判別が容易なため、お客様の前では必ず会釈をするなり声掛けをするなり、立ち止まって敬意を表しています。でも百貨店では、お客様にぶつかる、お客様に先を譲らない、お客様の前をさえぎるなど、そうしたことがとても多いのです。百貨店を離れてから、そうしたことがとても気になるようになりました。
私が勤めていた百貨店などは、特に社員だとバッチですぐ分かってしまいます。先日も私をお客とも思わず(?)前から来てぶつかられました。「失礼しました!」と言った次の瞬間には、もう違う方角を見ていました。あの人社員なのに…...と気分を害してしまいました。
しかし、私自身も百貨店時代は自覚が足りていなかったと思うのです。私共の宿にもサービス業で働いている方がよくいらっしゃるのですから、厳しい目で点検もされるでしょう。常に気持を引き締めなくてはならないと実感します。少し話はかわりますが、以前こんな事がありました。夜遅くなってお客様から「隣の部屋がうるさくて眠れない。」とフロントに電話がかかってきたのです。そのお客様は、小さなお子様連れのお客様でした。隣の部屋の方々は男性ばかりの明るい方々で、多分飲んで騒いでいるのだろうと思いました。
たまたまその日は端の部屋が空いていたので、そちらへ移ってもらってはどうかと社長が考え付きました。しかし、楽しく飲んでいらっしゃるのでしょうから、きっと水を差さされたような気分になるのではないか、怒られるであろうことは十分予想されました。
夜警さんと一緒に移っていただく部屋の準備を整え、恐る恐る扉をたたきました。やはり『今頃なんだ?』というお顔を皆さんなさって、私の方をご覧になりました。私は覚悟を決めて「お楽しみのところ大変恐縮でございますが、お隣のお部屋の方がお子さんがいらして、うるさくて眠れないとおっしゃっています。本当に大変申し訳ございませんが、一番端のお部屋が空いておりますので、そちらへ移って頂くわけにはいかないでしょうか?」皆さんの顔がこわばり目を合わせています。緊張が走りました。「私共と致しましては、どのお客様も大切なのは同じでございます。せっかく楽しんでいらっしゃるところへきて、興ざめなさってしまうだろうと思います。本当に心苦しく申し訳なく思っております。端のお部屋は何時までお使い戴いてもかまいません。」と申し上げました。
しかしそこまで聞いて中のお一人が「分かりました。もう、いいですよ。移りますから。」とおっしゃいました。数人が隣の部屋へ引き上げ始め(二部屋お使いでした)「もう寝ますから。」という方もありました。私は廊下で申し訳ございませんを繰り返しました。
するとしばらくしてお一人の方が「こういうことを言ってくれる宿って少ないですよね。僕達も小さい子供がいるんです。いつもは、子供が騒いで迷惑を掛けないようにしようと思っているんですが、今日はそんな事を忘れていたので、言ってもらって良かった。今度子供を連れて来ようと話していたところです」とおしゃって下さったのです。非常に有難く嬉しく、全身が震えるくらい感激しました。以前、このメールマガジンがまだ「続」になる前「お客様の常識」という題でお泊りのお客様ご自身の自覚について書いたことがございます。お風呂で騒ぐお子さん達に注意しないお母さん方に、宿としてどうしたらいいのか……。
たまたまいつもお越し下さるお客様が、やはり隣室のお客様がつけているテレビの音量が気になり、旅館側は注意できないだろうとご自身でお願いにいって下さったことがございました。その話しを後で聞いてメールマガジンに書いたところ、「お宅はお客にそんなことをさせているのか。自分のことだけが大切な客に対して、きちんと注意できる宿にお宅がなったら、泊まりに行っても良い。」というメールを頂いたことがございます。
他を批判するのはたやすいことですが、気安く書かれたご意見を戴いた側の人間が、大きく傷つくこともあるということを知って欲しいと思いました。もちろんその時の悔しい気持が、今回の勇気ある(?)行動につながったのかもしれませんが……。たまたま今回は、良いお客様に恵まれたのだと思います。自分たちには楽しむ権利があると、主張なさる方もあるかもしれませんね。人のことは自分のことよりよく見えます。人様のことを注意するのは難しくありません。だからこそ単純に批判するのではなく自分自身を戒める良い材料にしていきたいと思います。同じことを言うにしても、言葉をたたきつけるのと優しく問い掛けるのとでは大きく違います。私自身、よくカッと熱くなって言葉を投げつけてしまうことがあります。気をつけなくてはいけないと思います。
従業員に対しても夫に対しても、又息子達にも。廻りの人達に優しさと思いやりを。これからもずっと忘れずに生きていきたいと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆
「プロダクトコーン理論っていうのがあってね」 と家内に解説し始めると、「とうもろこし?」と聞かれた。「いや、円錐形の事をコーンって言うんだよ。アイスクリームコーンって、円錐形じゃない」と言うと、「え~、アイスクリームコーンって、ずっといままでとうもろこしで出来たものだと思っていた!ショック~!」と絶叫。それじゃあ、アイスクリームでできたたとうもろこしだよ(笑)(by aruji)
 (注-1) プロダクトコーン理論
           メルマガ「私はこう見る」の作者でもある、
           コンサルタント・森行生氏提唱のマーケティング理論
 (注-2)とうもろこし=corn  円錐=cone●おまけの息子●
息子は、明治大正時代の政治家・原敬と谷啓を混同していた。ガチョ~ン!(by aruji)

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