GWの出来事
毎年ゴールデンウィークには多くのお客様がお見えになります。連休時は道路も混雑しお越しになるだけでも大変。料金も安くありませんし、宿側の方も余裕もなく、有難いながらもお疲れになっていらっしゃるお客様をお迎えしながら、申し訳なく思っている次第です。
今年は中休み的な日もありましたから、いくらか冷静にGWを乗り越えられるかと思っていました。自分自身が少しづつ業界に慣れ、出来なかったことも段々こなせるようになって行くのは、嬉しくも楽しくもあるのですが、反面お客様のお気持ちに添えなくなったり、立場的に責任が重いため、心身供に追い詰められたような状況になるのは辛くもあります。なるべくならどんなに忙しくても、いつもと同様ベストな自分でお迎えをしていきたいものです。
そうした中で、恐らくこれからも決して忘れないであろう出来事が発生しました。5月3日から3泊のお客様でした。旅行代理店からのお客様で、パンフレットをご覧になってのお越しでした。私共の宿には離れの部屋が3室ございます。
比較的落ち着いた雰囲気の数奇屋造りの部屋です。しかし旅館では一般的なことですが、すべて全く同じ部屋ではありません。特に一番端の部屋はおなじみ様にも人気がある少し広めなお部屋です。これもまた良くあることですが、大抵一番良い部屋がパンフレットや雑誌のイメージ写真に使われます。今回お越しになったお客様もそのイメージ写真を元にご予約をなさったのです。
客室係によると「部屋のタイプが違いすぎる。」というクレームだったそうです。一番広い部屋は当然ご人数が多いお客様が優先となります。三日間のうち、初めの二日はどうしても取替えが不可能でした。『「最後の一日でしたらお部屋移動が可能です。」とお伝えして。』と社長に言われたので、私もそれほど深刻には受け止めずにお部屋へ伺いました。
旅行代理店のパンフレットには、「写真はイメージです」と言うコメントがつけられているという話しでした。お客様は、「いくらなんでもこれでは同じタイプの部屋とは言いがたい。僕達にしてみたらパンフレットの写真でしか判断は出来ないのだし、来てみて気に入らないでは困るから、写真つきのパンフレットで決めたわけです。」とおっしゃいます。私は社長に言われた通り、写真はイメージだと書いてあること、旅館に限らずホテルやその他の販売などでも一番良い部分をお見せするのが一般的であること、出来れば明日からでもお部屋を移動して差し上げたいところですが、部屋割りがどうしても上手くいかないことなどを説明して帰ってきました。
旅行代理店との契約条件の部屋なので、私達宿側は、誰もこちらに非はないと考えていました。三日目だけでもお部屋移動して差し上げることが、せめてもの好意とさえ考えていました。客室係によると、それ以降お客様は一言も口を聞かないそうです。「そんな風で楽しいのかしら?」とみんなで言い合いました。係も「私が三日間担当するんですか?」と言います。逃れられない係は気の毒だと私も思いました。
二日目の夜も同じくして、口を利かない状態が続きました。しかも「三日目だけなら部屋は移動しなくて結構です。」とおっしゃっているということでした。「せっかく好意でお部屋移動して差し上げようとしているのに、そんなにかたくなにならなくても良いのにねえ。」とみんなで話していました。
でも私は何となく気にかかり始めました。(何故お部屋移動を拒むのだろう?明日もこうして楽しくない一日をお過ごしになるだろうか。本当にこれで良いのか?)「明日の朝もう一度お聞きしてみてね。」と係に言いました。次の日出勤してすぐ聞いてみると、やはりお部屋移動はしないということでした。部屋移動する前提で作成した配置表(どのお客様がどの部屋で係が誰で....などを書いてある表のこと)を元通り書き直したものの、何となく附に落ちない気持ちと決まり悪さが私の心を占領し始めました。
「このままでお返ししてはいけない!」強く心の中で叫びが聞こえてきます。お客様をここまでかたくなにしてしまったのは、私達のせいなのではないか。全国に沢山ある宿の中から紋屋をせっかく選んでいただいて、しかも御料金はGWなので通常よりずっと高い。三日間も滞在していただいて、楽しくないお気持ちのままご自宅へお返ししては、余りにも申し訳ないのではないだろうか。もう決してお気持ちを緩めては戴けないかもしれないけれど、やれるだけのことはしてみよう。天からの叫びが私の頭の上でとどろいたのです。私達がお客様の気持になって差し上げられなかったことが、お客様の気持をかたくなにしてしまったのではないだろうか。
以前、雑誌にお一人13000円からと書いてあるのに、料理イメージとして20000円の料理写真を掲載してクレームになったことがある。それからはお料理の写真は載せないことにしたのです。それと同じなのではないか。私達にとっては当たり前でも、お客様にとっては当たり前ではないことはいっぱいある。このまま今日もまた、一言もお話して戴けない状態で過ごされるのは余りにも悲しすぎる。そう社長に話してみたのです。「貴方はえらいね。」と社長は言って二人で涙ぐんでしまいました。
社長が「お客様がお部屋から出ていらしてからでは遅いよ。」というので、お部屋の中まで入らなくともドアのところでもお話が出来ればと、近くのパントリーからお部屋へお電話を入れました。
「おはようございます。女将でございます。少しお話したいことがございますが、これから伺ってもよろしいでしょうか?ドアのところで結構でございますので。」ご了承戴きお部屋をノックしました。全身に緊張が走りました。
「朝から申し訳ございません。実はお部屋の件ですが、ずっとあれから考えさせていただきました。せっかく紋屋を全国の宿の中から選んでいただき、納得のいかないお気持ちのままお返ししたくないと思いました。確かにあのパンフレットにはイメージ写真であることが記載されていました。初めは私達に非はないと思っていました。でもお客様のご様子を拝見させて戴いているうちに、違うんじゃないかと思えてきたのです。私達にとっては当たり前のことでも、お客様にとっては当たり前ではないことはある。以前にも雑誌にお一人13000円からと書いてあるのに、20000円のお料理写真を載せていてクレームなったことがございました。其れからはお料理写真をのせるのはやめたのです。今後あのお部屋をパンフレットに載せるのは止めようと思います。私達がお客様のお気持ちを理解できなかったことが、お客様を不愉快にさせたのだとはじめて気がついたのです。こんなに大切なことに気付かせて戴いたお礼の意味も含めて、今日一日だけでもお隣のお部屋で、ご希望のお部屋でお過ごし戴けないでしょうか?もちろんお部屋移動は、私達ですべてお荷物の移動などさせていただきます。どちらかをお選びくださいというのではなく、お願いでございます。本日一日だけではございますが、ご希望のお部屋に移って戴けないでしょうか。本当にお願いでございます。私共の気持をお汲み取りいただけないでしょうか」
初めは奥様が出ていらしたので、ご主人様にも同じようにお話しました。お願いしているうちに又涙が滲んできました。そうしたらこの時初めて「そこまでおっしゃって下さるのでしたら....。」とほほえんで下さったのです。自分の子供が、生まれて初めて私に微笑みかけてくれたときのような感動が体に走って行きました。
事務所に戻り「ご了承戴きました。」と社長に報告。この話しをミーティングでも話しました。従業員全員の顔が神妙な表情に変わっていきました。それから社長が「フルーツバスケットをお部屋に入れようか。」と言い始めました。いつもはしていないサービスなので、大皿やフルーツナイフも見栄えが良いものがないと社長が自宅まで取りに行き、フルーツも買出しに行きました。私もフルーツに添えるメッセージを筆書きしました。そうしたことも考えるのは、難しいながらも楽しい作業でした。「いまさら喜んでは戴けないかもしれないけれど、すこしでも気持が伝わると良いね。」と言い合いました。
お客様はお昼ころ釣りへ出かけられ、そう長くないうちに戻っていらっしゃいました。そしてしばらくして又お出かけになられたようでした。夕方、お戻りになられたとき、お客様は「お気遣いありがとうございました。」とおっしゃってくださいました。そして夜、係は心づけを戴いたと私に報告してきました。「ご迷惑をおかけしました。」とおっしゃったそうです。
お客様の立場になって考えること。ケースbyケースで難しいものです。今回の場合もこちらに大きな非があったわけではありません。しかし、お客様を不愉快にしてしまったのは、私がお客様のお気持ちに理解を示せなかった点です。お部屋を替えて差し上げなくても、理解があれば少しは違ったかもしれませんね。なんという繊細で、しかも大きなことなのでしょうか!すごく大切なことを忘れかけていた、どんなにお礼を申し上げても言いきれないような思いが致します。
人間である以上、人と関らざるを得ないわけで、そういう意味で人と接する時の言葉や表情、態度の示し方はものすごく重要です。同じ意味を示す言葉でも、ちょっとしたニュアンスで大きく変わってきてしまいます。言い方、物腰、人としてぬくもりが伝わるような一個人でありたいですね。これからもお客様から色々なことを教えて戴き、努めて参りたいと思います。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆
今回の出来事への女将としての対応は素晴らしかったが、家内は時々訳のわからない事を言う。何でも、よくお日様を浴びて育ったのが「トメィトゥ」、あまり浴びていないのが「とまと」だそうだ。きっと天の声なのだろう。(爆)(by aruji)

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