ぬくぬくと
最近は、宿の女将になるドラマがテレビで放映されていて、ある種独特の知られざる世界に、世の皆様が関心をお持ちであることが伺われます。
『大変だろうな』と思いながらも、本当の宿屋の苦労は知らなかったからこそ、私は嫁にこられたのだと思います。女将職は憧れるような類の職業では決してないと思いますが、最近は、私が考えやってきた事や今やろうとしている事を評価してくださるお客様が少しずつ現れてきて、時々報われています。例えば紋屋はいま、なるべく細かいお客様のご要望を叶えようと努力しています。お一人お一人の食べ物の好き嫌いや、アレルギーの有無等を承ろうというものです。
正直に申し上げて非常に大変であり、それを実現させるのも、全員が同じ気持ちになってやらなければなりません。うっかりミスをしたり、横の連絡が上手くいかなかったりもします。先日も、連絡ミスで失敗してしまったお客様へお詫び状をお送りしたところ、そのお客様から『ミスをしたらといって、もう大変だから止めようということにしないでください』と、長いお返事を頂戴したのです。それほど宿泊業において、こまごまとした配慮をしてくれるところが少ないからなのでしょう。
人それぞれ抱えている悩みを少しでも軽減して、普通に旅行を楽しんでいただけるようにすること。バリアフリーだけは、紋屋は施設の構造上無理なのですが、自分達で出来る事を探していく、出来ない出来ないと思うことより、これなら出来るかも知れないと考えることの方がずっと良いですよね。今までもずっとアンケートは取ってきましたが、昔は今ほど敏感に対応して来なかったようです。毎日満室という時代は対応し切れなかったのでしょう。もちろん今でも全ての方のご意見を取り入れるわけではありません。でも、もっともだと思えてすぐにでも改善できること、お金をかけなくても出来得ることもつい見逃したり、忘れたり忙しさにかまけてそのままになりがちです。何かできるかもしれない事を探し、しかもお客様とご一緒にしていけたら本当に素敵ですね。
先日も以前からやや破損している椅子を、少し手を入れただけで目をつぶってきたものがあり、それについて木工の本職というお客様からご意見を頂戴しました。お安く修理して差し上げましょうか?とまでおっしゃっていただきました。セールスではなく、本当にこちらの一生懸命さに共鳴してのことです。分解して研磨して色を塗りなおし、組み立てれば蘇りますよとアドバイスしていただきました。紋屋の営繕は本職ではありませんが、なかなか器用な人で結局直してもらえそうです。
また、アンケートでのご感想に、私の売店での文字が素晴らしく感じたという嬉しいご意見があり、お礼状を出すと手作りの折り紙の兜を数種類送ってきてくださいました。季節柄売店のディスプレイに使わせていただきますとメールを送りましたところ、それも大変喜んでくださり、こういう心の交流がはかれるとは思っても見なかったと、お客様から感激のメールもいただきました。先日、昨年秋の台風の時に励ましのメールをくださった方が、お越しくださいました。その方は海外のホテルのマネージャーさんで、やはり台風に遭って宿泊のお客様に大変な迷惑をかけたのに、みんな一緒に倒れた木を片付けてくださったそうです。1年に1度日本に帰国できるそうで、ご実家は兵庫県であるにもかかわらず、その貴重なお休みにご来泊下さったのです。
その方のホテルはリゾートホテルではなく、現地の実際の生活に近い体験が出来るホテルで、共同での水のシャワー施設しかないような所だそうです。初めてお会いした方とは思えない程、現地での苦労話やいろいろなお話しをする事が出来ました。本当はもっともっと多くの時間を割いてお話しできると、更に嬉しく思ったのです。私たちは、紋屋の宿作りに共感を持ってくださるお客様に、常日頃励まして頂いています。『貸し出しのアロマオイルの紹介に、パウチされた案内があったほうがいいですよ。』『貸切風呂のガラスは特殊フィルムが張ってあると案内したほうが安心できますよ』などなど。それぞれに紋屋のサービスを良く分かった上での好意的なご意見です。
紋屋に来て見て、単純に普通の宿にしか感じられない方には、きっと名前も覚えていただけないと思います。しかし中には『サービスの本質を真剣に考えている宿』とおっしゃってくださるありがたいお客様もあります。折り紙をお送りくださったお客様や、椅子の直し方を教えてくださったお客様のように私共と一緒に宿作りに参加してくださる、そうした方々に支えられ、心の交流を図っていける宿でありたい。それが私の目指している接客における顧客様作りなのです。
不景気で、その上に個人的な悩みも多くあり、実際はいつも笑ってはいられません。でも時々良い事もある。心の交流を深めて気持ちがぬくぬくと温かくなるそうしたことも時々ある。だから私は接客の仕事が好きで辞められないのだと。苦労はあってもそれが私の人生だと感じる今日この頃です。
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◆素顔の女将◆
テレビに映ったバレーを眺めながら、「バレーダンサーにはなれそうもないなぁ」と何気なく私がつぶやくと、家内は「あなたの足が短いから?」と聞く。そうじゃなくてぇ~! 体が硬いからぁ~!!!(by aruji)

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