適材適所
皆さんは女将職で何が一番大変だと思いますか?私もはじめそれが知りたかったのですが、何が一番大変と一言では言えないくらい、女将職は範囲が広い仕事なのです。嫁に来る前に一番不安だったことは、自分に勤まるような仕事内容かどうかということでした。具体的には、今勤めている人達がみんなその頃は私よりずっと年上だったこと。みんな長く勤めている人たちだということ。そして、私の代になったらみんながいっぺんに居なくなるかもしれない。それが一番の不安材料だったと思います。
私がまだ紋屋に来て3年目で、女将になってまだ1年と数ヶ月という時、ある他の旅館の女将さんが、「私が従業員に教えたのはお辞儀の仕方だけ。後はいかにその仕事に向いている人を配置するかということが一番の仕事。」と仰っていたのを覚えています。
そのときはまだ女将になって日が浅かったですし、社長と「うちの場合は、適材適所だなんて言っていられるほど人が居ないね。」と言っていました。実際『私はフロントしか出来ません。』という人は、紋屋では今とても雇えないのが実情です。どこでもやりますという意気込みが必要です。現在の紋屋の職種は、客室係・内務係(布団敷き、皿洗い、掃除)・フロント・調理場・ボイラー・夜警・売店などに分かれています。しかし客室係や内務の求人は、今の時代なかなか人が来てくれません。これからは、フロントも布団敷きや掃除・客室係をしたり、夜警も内務をやったり、客室係も調理場の手伝いや掃除、皿洗い、売店、花活けなど、みんなが他の職種を兼任する。みんながどこでも担当できるようにしなければ、オフシーズンになると人が余ってしまう状態で、オンになるとどこも人が足らないということになります。
私が委員会を設けたり、様々な改革に取り組んだりすると、昔から長く勤めている人たちは、色々な心配や不安、もしくは不満や嫉妬、様々な憶測を呼ぶようです。昔からの従業員は仕事の兼任を余りしていないですし、今までは単純に指示によって行動すればいい時代でした。しかし今はどんどん世の中が流れていくのです。いかなる時代にも対応していける力をつけていかねばなりません。
そう考えていくと、個人個人の持っている適性をやはりよく認識し、普段からよくコミュニケーションをとり、さまざまな可能性を探っていき、それぞれの適性に合った新しい職場を与えていくことがとても大切なこととなってきます。やはりあの時教えて頂いた「適材適所」の見極めが非常に重要なのです。
人を多く雇えれば、忙しい時は余裕のある接客が出来ますが、房総はオフが多い土地なので正直に申し上げて多くの人材はかかえられません。一番会社の首を占めるのが人件費なのですから。ぎりぎりの人数で、多くの職種をこなせるようであって欲しいですね。宿は衣・食・住の全てを扱っている職種なので、少し目を離すと勝手に会社の車を私用で使ったり、私用電話をしたり、調味料を家に持って帰ったり、等などちょっとした使い込みもかなり出来てしまうところです。悪巧みがいっぱい計画できる人よりも、人柄が穏かでやさしい、おっとりしている人の方が安心もできるし、信頼ができるように思います。
そういう人はやや仕事振りもおっとりしていますが,うまくはしょって能率よく見える人よりも、仕事は丁寧なことも多いし自分と合うような気もします。余りにもぼんやりして、ミスが多ければ論外ですが.....。
客室係に他の仕事も手伝ってもらうという考えが今まで無かったのですが、最近は客室係で募集をしても人がこないので、求職に来た人にははじめから、フロントも客室係も内務も全部して頂きますとお話しています。そしてその中でも、どちらかというと朝型の人、どちらかというと夜型の人、機械いじりが得意な人、意外と男性でも客室係に適任な人など、人間の可能性はいつ芽生えてくるかわかりません。これからも常に、従業員の可能性を発見していけるようにありたいと思います。紋屋へ嫁に来る前から心配していた、いっぺんに人が居なくなるということも、みんな段々に年をとるので、新しい人を教育していけばいいことでした。教育できる人は考えてみればたくさんいたのです。案ずるより生むが如しですね。
女将の仕事は、自分自身が手紙を書く、花をいける、ということよりも、上手く仕事が運ぶように人を動かす能力に長けていることが一番重要かもしれません。私はなんでも命令口調で威張るのが不得意なので、みんなと一緒にものを考え、相談しあって全員に自分たちの宿だという意識を持ってもらいたい。そう思います。
忙しい時はクレームもいろいろあります。全てに真剣に取り組むと、気も休まりませんし眠れなくなります。できる範囲で一生懸命取り組み、時々思い切って休む。一日に少しでも楽しいことを考え、考えられたら自分を誉めるようにする。少しは自信を持ってそしてゆったりと気を抜いてみる。本来は、とても自分に自信を持つことが苦手なのです。女将業は本当にしんどい仕事だと、この頃実感しています。それだけ新米だった私も、半人前になってきたということなのでしょうか?これからもお見守りください。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆素顔の女将◆家内が「一太郎」に連れて行けと言う。そんなワープロソフトみたいな名前の店は知らないので、よくよく聞いてみると「与三郎」と言うちょっと変わった名前のドラッグストアの事だった。この調子で良くと、そのうち「雁治郎」か「健四郎」あたりに連れて行けと言うのではないかと睨んでいる(by aruji)

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